研究業績成果の概要

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noguchi

© Noguchi et al. (2022)
小惑星リュウグウの宇宙風化組織
メテオロイド衝突による宇宙風化を受けた部分です。 このような宇宙風化による表面の組織を私たちはFrothy layerと名付けました。Frothy layerは表面数ミクロンが融けて泡立っています。走査電子顕微鏡で撮影した反射電子像です。

 

・太陽系の大気のない天体表面は、マイクロメテオロイドが秒速10キロメートルを超えるような速度で衝突、太陽からのプラズマの流れである太陽風の照射、さらには、太陽および銀河宇宙線の照射に常に曝されている非常に厳しい環境にあります。これらの影響で、大気(と磁場)のない天体の表面の化学組成、構造、そして、光学的特性が徐々に変わっていることが知られています。この変化を宇宙風化といいます。

・小惑星リュウグウは、内部太陽系の小天体で最も多いC型小惑星に属しています。野口高明 理学研究科教授らの研究チームは、「はやぶさ2」によるリュウグウからのサンプルリターンをもとに、このC型小惑星の特徴を実験室で研究しました。宇宙風化による試料の表面の変化は、今まで地球に持ち帰られた月やS型小惑星イトカワの試料で研究されてきました。これらの試料は、基本的にヒドロキシ基(OH)や水分子(H2O)を含まない無水鉱物からできています。一方、C型小惑星であるリュウグウは、そのもととなる天体ができたときに、鉱物、有機物、氷が集積し、その後、氷が融解して鉱物が水と大規模に反応しました。この天体が、他の天体の衝突で破壊されてできた破片が集まって現在のリュウグウができました。このため、リュウグウの物質は、層状珪酸塩鉱物という粘土鉱物の仲間を大量に含んでいます。宇宙風化が検出できたリュウグウ粒子(本研究では「砂」サイズの試料を分析しているため、サンプルを粒子と表すことにします)には、層状珪酸塩鉱物の結晶構造が壊れてしまっているものと、層状珪酸塩鉱物が部分的に融けているものがありました。どちらの場合でも、層状珪酸塩鉱物に含まれていた3価の鉄イオンが2価に還元されていました。 
 
・また、層状珪酸塩鉱物に含まれるヒドロキシ基が失われていました。これは、リュウグウ粒子表面から水が取り去られたことを意味します。特に、層状珪酸塩鉱物が部分的に融けた場合、脱水反応は顕著でした。これらの結果は、C型小惑星における宇宙風化では、小惑星リュウグウの表面に存在している層状珪酸塩鉱物の脱水が大きく寄与していることを示しています。「はやぶさ2」が測定した、2.7ミクロンの波長の光の吸収が弱い小惑星の反射スペクトルは、ヒドロキシ基が少ないことを示しています。C型小惑星一般においても、2.7ミクロンの吸収帯が弱い天体は、天体全体で揮発性物質が失われたというよりも、宇宙風化によって引き起こされた脱水の程度を示しているのかも知れません。

・本研究は,50名を超える砂の物質分析チームの研究成果ですが,特に,京大の研究者が核となって研究した最初の成果です。チーム長である野口と共に,松本徹白眉センター特定助教,理学研究科教員である三宅亮准教授,伊神洋平助教,理学研究科大学院生の奥村翔太君と三津川到君,化学研究所の治田充貴准教授が重要な役割を果たしました。

・他の研究グループの研究とは違い,現在の小惑星リュウグウの上で起きていることに注目しました。ほかのひととは違う視点から研究するという,京大らしい研究と著書達は思っています。本研究成果論文はオープンアクセスになっていますので,どなたでも読むことができます。  

 

詳しくは以下をご覧ください。
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2022-12-23-1